虐殺器官(伊藤計劃 著)冷たい興奮 ネタバレなし

虐殺器官を読み終わった。
ネタバレは避けつつ、読了後の冷たい興奮をお伝えしたい。
著者である伊藤計劃(いとうけいかく)氏はすでに亡くなっている。
同氏のもっと多くの作品を読みたかった。読了後、そんな思いが自然に湧き上がってきた。この小説は間違いなく、天才の証明だ。
他にもメタルギアソリッドの小説を描くなど、存命であれば間違いなくSF界の巨匠に成り得ただろうと思う。
本作品との出会い
前々から気になっていたものの、なぜか毎回購入まで至らず放置していた。このカバーとにかく目立つ。

そこはかとなく厨二病的なかっこよさを醸し出す絶妙なデザイン。そして”虐殺”という典型的な厨二病ワード。
書店に行くと毎回目には入るのだが、この外装の仕上がりから、どこか軽そうな、、ちゃちな小説という先入観を拭えずにいた。
普段僕はあまり小説を読まない。
先日、久々に小説を読んだ時のことだ。
これは食わず嫌い克服のため、村上春樹氏の作品をあさっていたとき。手にとった本(1973年のピンボール)は、分量も少なく、タイトルもわりかし面白そうと確信。ところが読み始めると頭にこんな言葉が浮かんでくる。
つまんねぇええええと。
どうやらつまらないと噂のものだったことを知り、落胆した。その時の書評はこちら。
そこで近々、小説のリベンジを画策することにした。一旦、村上春樹氏の作品は置いて、とにかく自分好みなもの。
書店をふらつき、いつものように目に入った本書を、今回は思い切って購入した。
これが購入に至った経緯だ。
舞台は近未来・・・現実へと近付いている。
本作品の舞台は近未来。情報管理社会である。
ここに著者の天才性、いや作品に対するこだわりを感じることができる。
SF作品にありがちな現実離れした世界の前提はなく、起こりうるであろう世界をベースとしている点だ。
それはまるでメタルギアソリッド4あたりの世界。情報通信技術の発達と戦争。ありそう程度のものではなく、現実にあるのでは?と思ってしまうほど。
この世界を描くにあたり、著者は一体どれほど調べ、そして悩み、苦難を経て創り上げたのか。2007年の段階でよく、これほどの現実的な近未来を描けたものだ。それから11年経過した2018年現在にあって、この世界は古びるどころか、益々現実味を帯びてきたように思う。
著者 伊藤計劃氏の描いた世界はもしかしたら近付いているのではないか。
そう思ってしまうほど、リアリティのある近未来だ。
知的な複雑さ。興奮。
本書の題名となっている「虐殺器官」。
これはただのキャッチーなフレーズではない。
“虐殺”という意義。
“器官”という意味。
これらが物語の根底にある。
これらを骨、
そして遺伝子学や脳科学、心理学などの幅広い知識を屈強な肉として、
深みのある複雑な論理を紐解いていく。
真の敵は誰なのか。
途中、非常に学問的な説明でありながら、それでもハラハラを抑えきれない。
とにかく、こいつは傑作だ。
ブルーレイ版も見たいな。
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