書評『少年A矯正2500日全記録』(草薙厚子著)*ネタバレなし
- 2018.08.19
- 雑多本
- 少年A, 更生, 神戸児童連続殺傷事件, 酒鬼薔薇

神戸児童連続殺人事件。
数日前に僕は事件の犯人である少年Aのパーソナリティ分析に関する書籍を読んだ。
以前投稿した書評:「読書 心理」”少年Aの深層心理”連続殺人犯のメンタリティに迫る。
非常に精緻な分析過程を記しており、本事件のみならずパーソナリティ分析に興味がある人にとってもお勧めできる書籍であった。
今回はその続きとして、同じ犯人の更生の記録についての本である。
著者は法務省の法務教官・TVアナウンサー等を経て、ジャーナリストになった少々異色の経歴を持つ。
精神分析の専門家というわけではない著者が、一体どのように語るのかいささか疑念はあったが、その後の犯人がどうなったのか知りたかったので、とりあえず読んでみた。
さすがジャーナリスト:読みやすいリズム・言葉選び
まず数ページ読み進めていきふと思ったのはその読みやすさだ。
キャスターやジャーナリストを経験してる著者だからこそ、専門家にはあまりない伝わる文章で丁寧に作られている。難解な言葉を極力使わずに、かつ最低限触れるところには触れるスタンス。
非常に良い印象を持った。
少年院更生施設での生活が描かれている。
少年の精神状態については直接把握できるわけではないだろうが、しかし関係者への聞き込みを通じて論理的に納得のいくレポートといった感じ。
特に鑑別所の法務教官だった著者は内部の実態に明るく、少年院等の更生施設について全く知らなかったので新鮮だった。
正直なところ内容は薄い
ここからは悪い点を挙げる。
正直、専門家でもなくフリーのジャーナリストなので、情報に付加価値があったようには見えない。
そのためすでにわかっている情報の2度塗り程度。
以前、僕が読んだ研究者の書籍に比べると内容に大きな差があったように思う。
犯人への肩入れ・お涙頂戴
更生していく犯人を描いた点には賛否両論あると思うが僕は良いと思う。
枠にはめ込むのもどうかと思うが、それでも人間社会で生きていく上で最低限の枠(人を殺しちゃいけないだとか)には収まっている必要がある。
その上で犯人がどう変化したのか、犯行当時の異常性に変化が出たのは僕としても良いことだったのではないかと思う。
しかし、さすがに後半はずっと肩入れしすぎだ。
変貌があったことは事実だろうが、簡単に人が根の部分から変化するわけではない。
最後に”完治”とあるが、そこまで納得させるだけの論拠を示せていたとは言えない。
ざっくりと学ぶには良いがあくまで軽い読み物程度
本事件の概要を掴むには良いかもしれない。説明もわかりやすく読み進めることに苦労はない。200pちょっとなのでそんなに時間はかからないだろう。
しかし犯人の姿・事件の背景を詳しく知りたいという好奇心を満たすまでの書籍ではないように思う。
本書を最初に読んでそれから最後にオススメとして挙げている書籍を読むと理解が深まるのではないでしょうか。
決して風化させてはいけない、後生に伝えていくべき事件の一つだと僕は考えております。
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